今や夏の脅威となった「ゲリラ豪雨」。人口が密集する都心部では、人命にかかわるリスクも懸念される。東京23区の危険エリアを検証した。
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駅の改札は見る見る浸水し、歩道や車道はあっという間に川のような流れに──。8月27日夜に都内を襲ったゲリラ豪雨。SNSには、都内の至る所で冠水や浸水の被害が出ている動画が次々にアップされ、見慣れた場所が一瞬で「危険地帯」に変わる現実を突き付けた。
「犠牲者が出ませんように」
そんな切実な願いとともに、世田谷区の自宅で同日のゲリラ豪雨と向き合っていた人がいる。大都市の浸水の数値予測と被害軽減対策を研究している早稲田大学理工学術院の関根正人教授(都市水防災工学)だ。
「この夏さえ乗り切ることができれば、と祈る思いでした。被害が広がれば、もう少し早く取り組めばよかったと悔やむことになるのは間違いないので」
関根教授がそう振り返るのは、2000年以降、取り組んできた東京23区の「リアルタイム浸水予測」の実用化が目前に迫っているからだ。
ゲリラ豪雨をもたらす夏の積乱雲は10 分ほどで発達し、発生から雨を降らせて消滅するまで30分~1時間。ごく限られた場所に突如発生するため、被害予測の困難なことが「ゲリラ」と呼ばれる由縁なのだが、関根教授は「23区に関しては、来年夏までには精緻な浸水予測結果をリアルタイムで広く発信し活用いただけるようになるはずです」と胸を張る。
新たな予測システムの紹介の前に、都心部の浸水被害のメカニズムについて説明しよう。
23区内は皇居や明治神宮、日比谷公園などの都立公園を除けば、高層ビルや住宅が密集し、地面のほとんどは舗装道路で覆われている。このため雨水は、道路の下に高密度に整備された下水道に取り込まれ、神田川などの都市河川に流出する。河川の水位が上昇すると、下水道からの雨水で河川が氾濫する恐れがあるため、例えば都心部を流れる神田川の流域には都道環状7号線の下に地下河川が造られ、河川沿いに複数の調節池も整備されている。ところが、設計上の降雨強度をはるかに超える豪雨が発生すれば、浸水被害は避けられなくなる。近年はこうした事態が相次いでいるのが実情だ。