(※写真はイメージ)
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タナカさんは「自分への迷いを断ってから、胸がすっと軽くなった気がする。また新しい日々が始まることを信じている」という(写真:本人提供)
タナカさんは「自分への迷いを断ってから、胸がすっと軽くなった気がする。また新しい日々が始まることを信じている」という(写真:本人提供)

 ミドルエイジにさしかかり、自らのSOGI(性的指向・性自認)について問い直し、 歩き始める人たちがいる。葛藤や経験を重ねたからこそ開けられた「扉」とは。

*  *  *

 男性会社員のタナカさん(43、仮名)にとって、それは大きな決断だった。10歳年下の同性パートナーの手を取り、風光明媚な西日本の街から東京の郊外に移り住んだのだ。今から5年前のことだった。

「東京に行けば自分らしくなれる気がしたんです。周囲の目が窮屈だったから」(タナカさん)

 2人は地元で勤めていた仕事を辞め、日当たりの良い都内のマンションの一室に落ち着いた。

 タナカさんが、同性が好きな自分に気付いたのは小学校高学年の時だ。相手は運動神経の良い、クラスの人気者。タナカさんはそんな自分を絶対認めたくなかった。

 だから、初めての性体験の相手はバイト先の年上の女性だった。高校2年生の時だ。「自分はゲイなんかじゃない。こうやってセックスできたじゃないか」

 けれども結局うまくいかず、その女性とはすぐに別れた。

 高校を卒業後、タナカさんは市内の繁華街にあるバーで働き始めた。女性、男性を問わず多くの若者が集まる店だ。酒の力を借り、勢いで異性と身体を重ねる日々。自分を奮い立たせながら、同時に自分をごまかし続けた。

 ある夜、バーの常連客の女性から突然、声を掛けられた。

「好きなんだけど」

 好意をストレートにぶつける女性の態度が眩しいと思った。タナカさんは当時を振り返る。

「うまく言えないけど、知らない景色を見せてくれる気がしたんです。
『これが愛かも』って」

 妊娠が分かった時、ちょっと怖気づいてしまった。すると彼女はガチ切れした。

「そんな態度なら別れるから!」

 彼女の言葉が何だかうれしくて、タナカさんは結婚に踏み切った。そして同時にこう思った。

「これで男への興味は封印できるかもしれない。できるはずだ」

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