「(多民族共存の)コソボ憲法はヨーロッパに押し付けられたものだ。コソボはアルバニア人の国としてアルバニアと合併することで周辺も安定するのだ」
●ポーズ英雄視する首相
現実問題として、国境の変更は周辺諸国だけではなく、NATOによるセルビア空爆を主導し、いち早くコソボを国家承認した米国も認めないだろう。こうした主張が続けば、国連加盟もさらに遠のくのは明らかだ。
ベルギー代表で日本代表とも戦ったヤヌザイもコソボ出身のアルバニア人2世だが、ちょうど4年前、コソボではなくベルギー代表を選んだ彼の元には脅迫状が届いている(14年7月8日daily mail uk)。
ジャカとシャチリの行動の背景にも、スイス代表を選んだことを弁明する思惑があったことは想像に難くない。同情するのは、コソボ紛争時、ジャカは6歳、シャチリは7歳と、まだ幼かったことだ。本来は、セルビアに対する憎悪の記憶を持たずにスイスに暮らすことのできた彼らにあのような行動をとらせた、アルバニアナショナリズムにこそ問題がある。
ポーズを英雄視し、罰金を科された彼らのための募金を呼びかけ、稚拙な民族主義を煽り続けるアルバニア首相をはじめとする一部の世代の責任は重い。
あのジェスチャーを身内ではなくW杯で、セルビア人選手の前でするということは、コソボ国内で共存を目指す少数民族を震撼させる政治的挑発行為にほかならない。憎悪が断ち切られていれば、スイス代表を選んだジャカとシャチリは、あんなポーズは取らずにすんだはずだ。(文中一部敬称略)
(ジャーナリスト・木村元彦)
※AERA 2018年7月23日号