「コソボ協会はアルバニア協会とは違う」
「コソボのサッカー、コソボの代表は、もはやひとつの民族のものではない」
多民族とプレーしていた現役時代の記憶がそう言わせており、コソボの未来もそうあるべきだと主張していた。実際、協会の副会長に対立民族であるセルビア人のプレドラグ・ヨービッチを据え、自ら融和を図っていた。
この思いは国外にも伝わっており、ヴォークリの訃報が伝えられると、セルビアからもルージッチ、ゼチェビッチというかつての盟友が弔問に訪れた。セルビアのクラブであるパルチザン・ベオグラードでもプレーしたヴォークリの追悼に際し、過激なことで知られるサポーター集団グロバリも、「我々にとってベストの選手のひとり」とアルバニア語の新聞、コハ・ディトレにコメントを寄せた。
しかし、彼の遺志を台無しにするようなパフォーマンスが行われてしまった。
●アルバニア移民の2人
6月22日、スイス対セルビアの試合でスイスの2人の選手、ジャカとシャチリがゴール後に両手を胸の前で交差させて扇ぐジェスチャーをしたのである。それはアルバニア国旗にある双頭の鷲を示すもので、「大アルバニア主義」を象徴するポーズだった。
2人はコソボ出身のアルバニア移民の2世。ジャカはこのポーズの写真とともに、「セルビアは好きじゃない。僕はコソボのことを考えている」というコメントをインスタグラムに載せた(後に削除)。
FIFAはパフォーマンスを反スポーツ的行為であるとして、罰金のペナルティーを科した。対戦相手が紛争の末に独立を果たした対立当事国のセルビアであり、挑発と思われても仕方のない行為だった。
FIFA規律委員会の調査を受けたジャカとシャチリは、パフォーマンスの理由を「興奮しただけ」「両親がルーツを持つ故郷の人々のためだ。相手への関心はなかった」と語り、これが大きく報道された。
●自重すべき行為だった
日本でも、「あのポーズは、FIFAが禁じる政治的宣伝だった、とは思えない」「『カズダンス』に似た表現で政治的ではない」といった、移民のアイデンティティーの発露という文脈で解説する報道が続いた。だが、彼らはセルビア戦以外ではこのポーズを取っておらず、事態はそれほど単純ではない。