当時、春のリーグ戦を不本意な成績で終え「何かを変えなければいけない」と感じていた小川は、メジャーリーグでも屈指のパワーピッチャーといわれたロジャー・クレメンス(元レッドソックスほか)が、ある本を参考にしていたことを知る。それが「ノーラン・ライアンのピッチャーズ・バイブル」だった。
ライアンはテキサス・レンジャーズなどで通算324勝をマークしたレジェンドで、1999年に米野球殿堂入り。通算5714奪三振、ノーヒットノーラン7回はいずれもメジャー記録となっている。彼のトレーニング方法や投手としての心構えなどが書かれた「バイブル」を「ほぼ全部参考にした」という小川は、「高く上がった足はノーラン・ライアンのトレードマークである。力を生み出す原動力となる」と書かれたその投球フォームにも注目する。
自らもライアンばりに左脚を高く上げる新フォームで「和製ライアン」と呼ばれるようになり、ドラフト2位で2013年にヤクルト入りすると、16勝4敗、防御率2.93、勝率.800の好成績でセ・リーグ最多勝、最高勝率のタイトルを獲得。13勝6敗の菅野智之(巨人)、高卒1年目で10勝6敗の藤浪晋太郎(阪神、現アスレチックス)を抑え、新人王に輝いた。
その後も進化を求め、小川は投球フォームの試行錯誤を繰り返す。公認野球規則で禁止されていた2段モーションが認められるようになるとこれを取り入れ、今年もオープン戦の途中までは胸の辺りまで上げた脚をいったん下ろし、再び上げてから投球に入るフォームで投げていた。
2段モーションをやめ、本来の「ライアン投法」に戻したのは、オープン戦最終登板となった3月24日の日本ハム戦(エスコンF)から。転機となったのはその1週間前、4回5失点と打ち込まれた3月17日の阪神戦(神宮)だった。
「オープン戦の阪神戦で(2段モーションを使わない)クイックの方が球が良かったっていうのがちょっとあって。それで家でふと思ったんですよね、『(2段モーションは)いらないんじゃないかな』って。で、ノリさん(青木宣親)に『どっちの方がタイミング取りづらいですか?』って、そういうのも聞きながら、これでもいいんじゃないかなって」