「負ければ自分が出場しないまま、W杯の敗退が決まる可能性もあったので、ホッとしました。西野さんはリスクを取りにいったが、個人的には結果的にすばらしい采配だったと思っています。僕が監督でもこの采配はできなかったと思う。今日に限っては結果がすべてでしたから」

 批判は当然として受け入れ、どんな手段であれ、結果が大事だと痛いほどわかっている本田らしい言葉である。そして、こう続けた。

サッカーってホントは結果至上主義じゃダメなんですよ。でも結果を出さないと、誰も見向きもしてくれないので、オレは結果だけを追い求めてきている。本当はいいサッカーをしてナンボ。だから、ブーイングが起こったわけだし、ファンには申し訳なかったと思います。でも次に進まないと意味がないことを理解してほしい」

●短い時間で持ち味復活

 いろいろな感情が本田の中にもあったと思うが、それを押し殺して指揮官が取った策と結果を尊重し、そして自らにまだ活躍のチャンスが残ったことを喜んでいるようだった。

 1、2戦で作ったいい流れを自ら断ち切ってしまったような戦いぶりは、結果オーライだったとしても決して称賛されるべきではない。ただ、事実として挽回のチャンスは残された。

 本田は、過去にこんな話をしていたこともある。

「僕が大事だと思うのは、失敗してどーんと落ちた後に盛り返す力なんですよ。失敗したときにこそ、真価が問われる」

 7月2日の決勝トーナメント1回戦では、強豪ベルギーとの対戦が決まったが、本田は短い出場でも虎視眈々とゴールの機会をねらっているはずだ。

 コンディションも心配されるが、現地で取材に当たっていた自身も元サッカー選手で、英国BBCのケヴィン・ダニエル記者は出場時間が限られたことで本田本来のよさが戻ってきているとも指摘している。

「長い間、欧州でプレーしてきたし、経験もある。今大会ではこれまで控えに回っているが、かえってフレッシュに見えるし、ここまでの仕事ぶりを見ても一発を持っている選手であることに変わりないと思う」

 本田自身、出場時間が限られるなかで「一発で決めないといけないという緊張感の中で準備をしているつもり」とこれまでにない高い集中力で試合に臨んでいる心境を吐露している。

 いまの本田圭佑があるのは、チャンスを生かしてきた過去があるから。

「僕は、割とたたかれることに感謝したり、楽しんでいる部分がある」

 ここからは負けたら終わりの厳しいノックアウト戦。だが、一度ドン底を味わった男が、周囲を見返す絶好の機会と燃えているのは間違いない。(ライター・栗原正夫)

AERA 2018年7月9日号

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