このスタンフォードへの留学の道を開いてくれたのが東京工業大学の博士課程学生向けリーディングプログラム、グローバルリーダー教育院だ。海外研修として、d.school主催のデザイン思考ワークショップに参加する機会を得たのだが、せっかく行くのならと、ADRセンター長のジャネット・マルティネス先生に面談を申し込んだのがはじまりである。

 もともとは個人的な経験から民事紛争解決の仕組みに興味をもち、一橋大学大学院で日米のADR制度について研究をしていたのだが、その際にマルティネス先生のDispute System Design(紛争システムデザイン)に関する論文を拝読して感銘を受け、ぜひ直接お会いしてディスカッションをしたいと考えたのだ。先生は、一学生の突然の依頼にも快く応じてくださり、ありがたいことに現地でお会いする機会を得ることができた。そして、研究をはじめた動機や問題意識、今後の展望をお話ししたところ、幸運にもスタンフォードで研究するチャンスをいただけたのである。

■日本での社会実装が研究テーマの中心に

 研究をしながら、強く感じたことがある。それは、ODRをサービスという形にまで落とし込み、広く一般に普及させるには、社会実装に関する研究を行い、その情報を発信することが必要だということである。

 筆者がこのような考えをもつにいたったのも、まさにスタンフォードのカルチャーの影響が大きい。ODRは、紛争解決手続にICT技術を活用するところからスタートし、近年ではAI(人工知能)技術の利用も模索されている。そうすると、必然的に学際的な研究が必要になるのだが、そのような研究体制はスタンフォードではよくみられている。日本にありがちな縦割りの組織運営ではなく、研究目的を達成するために、学内外の研究者が分野を超えた連携をして、有機的なつながりを生み出しているのである。

 たとえば、筆者が研究に使っていたブースは、ロースクールが入る建物の3階にあったのだが、同じフロアに各種研究センターが集められている。カフェスペースを中心に別々のセンターが配置されているので、ちょっとした休憩時間等に研究者同士が会話をしやすい環境だ。

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ODRのプロセスと技術