
紛争解決手続をデジタル化しようという動きは、特にコロナ禍を契機として急速に進んでいる。世界中で裁判所や各種行政窓口が一時的にでも閉鎖されることになったが、公的サービスへのアクセスを閉ざしてはならないと、技術活用をする方向へ大きく転換したからだ。ODRを社会実装する意義からいうと、めざすべきは、発展フェーズ以降の段階であり、筆者の研究も、主にこの第2段階と第3段階を対象としている。ODRプラットフォームの具体的な中身は、運営主体が達成したいと考えるゴールによるので、そのデザインのあり方について、研究をすることも重要だと考えている。
■日本での議論の進展、国内外での活動
海外から遅れはあるものの、日本でもODRの社会実装に向けた議論が進展している。日本ではじめてODRをテーマとした国際シンポジウムが開催されたのは2018年のこと。前任の一橋大学で「AI・ビッグデータ時代の紛争ガバナンス―Online Dispute Resolution―」というイベントを企画し、スタンフォードの恩師であるジャネット・マルティネス先生とODRにおける世界的パイオニアである、コリン・ルール氏に来日していただき、京都大学法学研究科特任教授の羽深宏樹さんにもご登壇いただいてパネルディスカッションを行った。
このイベントも一つの契機となり、その後、2019年に政府の成長戦略にはじめて「ODR」という言葉が入り、内閣官房に「ODR活性化検討会」が設置された。2020年には法務省が「ODR推進検討会」を発足し、そこでの議論を経て、2022年3月に「ODRの推進に関する基本方針~ODRを国民に身近なものとするためのアクション・プラン~」が公表された。この基本方針では、短期目標としてODRの認知度の向上及び推進基盤の整備、中期目標として、世界最高品質のODRの社会実装、そして、スマホ等の身近なデバイスが1台あれば、いつでもどこでもだれでも紛争解決のための効果的な支援を受けることができる社会の実現を掲げている。筆者もこの検討会の委員として議論に参加してきたが、ようやく日本でも、ODRの社会実装に向けて動きはじめたことを感じている。