今後は、政策的な議論から具体的な社会実装のフェーズに入っていくことになるだろうが、それにはユーザーを中心としたODRの「デザイン」が重要となる。これもスタンフォードでの研究がなければ、気づくことができなかった視点だ。

 研究以外にもODRの普及に向けた活動を行ってきた。2020年には、日本ODR協会を設立し、各種講演を行ったり、関連イベントの企画や研修を実施したりしている。国際的なところでは、APECにおけるODRの議論やISO規格に関する議論に委員として参画したり、マサチューセッツ大学附設のODRに関する研究センター(NCTDR)のフェローやODRの国際コンソーシアム(ICODR)のボードメンバーに就任したりするなど、さまざまな活動に参加している。これもすべて、ODRの社会実装を実現するための取り組みだ。

■紛争解決のこれから──ODRをデジタル社会のインフラに

 研究者としてもまだまだ駆け出しで、学外での活動についても、やりたいことのほんの一部しかできていない現実に、もどかしさを感じることもある。それでも、焦らずに研究を積み重ねて、その成果を社会に還元するというのが今の目標だ。

 近年でこそ、裁判手続のIT化等を含む司法のデジタル化の議論が進展しているが、研究をはじめた当時、紛争解決手続をIT化するというアイデアを話しても、なかなか受け入れてもらえなかった記憶がよみがえる。これまでの道のりを振り返ると、決して平坦なものではなかったし、これからも、たくさんの山を乗り越えていかなければならないのだろうと感じている。

 先端的研究や新たな仕組みの社会実装に向けた活動をしていると、思うように進められずに苦しい思いをすることも当然あるのだが、そんなときに、一歩でも先に、前にと、あきらめずに進むことの大切さを思い出させてくれるのがスタンフォードでの学びだ。そういう意味でも、研究者としての私の原点は、間違いなくスタンフォードにある。

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日本社会でODRが広まるには、もう少し時間がかかるかもしれない