国際的にも、SDGsのゴール16「平和と公正」に掲げられた目標と関連して、技術を活用して正義へのアクセス(access to justice)をひらこうという気運が高まっており、その実現に向けた取り組みがさまざまに展開されている。

■トラブル解決のデジタル化がなぜ必要か

 私たちの日常生活は便利なオンラインサービスであふれている。Amazonで商品を購入すれば次の日には手元に届く。旅行の手配も専用サイトを使えば自分でできる。だれかを応援したいと思えばネットで支援もできるし、マッチングアプリを使えばパートナー探しもできる。コロナ禍もあって、インターネットでできるサービスは格段に増えた。今では財布よりも、スマートフォンをなくすほうが困るという人も多いのではないだろうか。

 他方で、裁判やADR(裁判外紛争解決手続)といった分野は、驚くほどアナログな世界である。それに、なにかトラブルに直面したとしても、個人が自分で法的紛争を解決するのは難しい。申し立て書類を準備するだけでも手間がかかるし、解決するには時間やお金もかかる。

 そうすると、当事者はどうするのか。解決方法がわからずに「あきらめる」ことになる。たとえば、離婚紛争。将来的なトラブル予防のために、裁判所を通して離婚手続をしたいと考えても、平日の日中に裁判所に出向く時間が取れない、弁護士費用を捻出するのが難しいなどとなれば、たとえ「協議」ができていなくても、やむを得ず協議離婚を選択することになる(事後的にトラブルが起きないことを願いつつ役所に離婚届を出す。もしくは、そもそも離婚調停といった制度があることを知らない人もいるかもしれない)。

 他には、電子商取引紛争。インターネットで購入した商品が破損していたのに、返金も代替品の手配もしてもらえないといったこともあるだろう。日本の事業者でも、個人が企業を相手に交渉をするのは難しい。それが海外の事業者ともなれば、英語でのやり取りが必要になるかもしれず、クレームをいうだけでも一苦労である(海外事業者が日本語の通販サイトを作っていることもあり、トラブルに遭うまで気づかないということも現実問題としてありうる)。

次のページ
インターネット普及で便利になったが、トラブル解決が容易ではなくなった