役割については、それぞれの家庭や経済的な状況があって、いかんともし難い面もあります。しかし、自分が「できないこと」を念頭に置いて、お金の人は「お金でしか協力できなくてごめんね」、口の人は「面倒もみられないし、お金も出せない。せめて判断材料になる資料をそろえるよ」、手の人は「お金の余裕がないから、せめてお世話させてね」と、相手を思いやる会話ができるように心がけることが第一だと思います。

■親の介護をきっかけに、きょうだいの縁を切るのも親の教え

 それでも意見の対立が続いて、にっちもさっちもいかなくなることもめずらしくありません。そんなとき、いままで何も言えずに話を聞いていたあなたの子ども(お年寄り本人にとっては孫)が発した、「大好きなおばあちゃんがイヤじゃないようにしてほしい」というひと言が、場を救うことがあります。この言葉で全員が夢と希望に立ち返り、口・手・お金でもつれていた糸を、すんなりほぐすこともあるのです。これは、親の介護のあり方の話し合いは、未来につながる話だと気づいたからだと思います。

 最後まできょうだいが納得する着地点を見いだせず、険悪な関係を修復できないような状況に立ち会うと、いまさらながらに家族にとって親の人生の道筋をつけるのはたいへんなことなんだと実感し、力になれなかったことに無力感をもつこともあります。しかし、きょうだいの間で、親のこれからにかかわる話し合いにもかかわらず、感謝とお互いを認め合う気持ちがないのなら、いっそ、親の老後のことが決まったら、すっぱり縁を切ったほうがいいのではないかとも思います。

「お前たちはこれ以上かかわり合うな、そのほうがそれぞれにとって幸せだ」と、親が最後に、身をもって教えてくれているのではないか。そんな気がしてなりません。

(構成/別所 文)

高口光子(たかぐちみつこ)

元気がでる介護研究所代表

【プロフィル】

高知医療学院卒業。理学療法士として病院勤務ののち、特別養護老人ホームに介護職として勤務。2002年から医療法人財団百葉の会で法人事務局企画教育推進室室長、生活リハビリ推進室室長を務めるとともに、介護アドバイザーとして活動。介護老人保健施設・鶴舞乃城、星のしずくの立ち上げに参加。22年、理想の介護の追求と実現を考える「高口光子の元気がでる介護研究所」を設立。介護アドバイザー、理学療法士、介護福祉士、介護支援専門員。『介護施設で死ぬということ』『認知症介護びっくり日記』『リーダーのためのケア技術論』『介護の毒(ドク)はコドク(孤独)です。』など著書多数。https://genki-kaigo.net/ (元気が出る介護研究所)

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