「これでもし、長期入院しなければいけない病気になれば確実に契約解除されるし、次に雇ってもらえる保証もない。現在も暮らしていけないのに、老後を考える余裕なんてありません」

 都内にある大学の特任講師の30代男性は数年前、心身ともに疲弊し、食事がのどを通らなくなった。駅のホームに立つのが怖かった。男性はこう振り返る。

「死ぬ気はないんですよ。でも、体が弱っているから、電車の風圧にもふらっと『呼ばれる』感じになる。自殺というのはこういうことかと」

 男性が政治学研究者としての将来を悲観したのは、学内の事情で博士号取得が目前で不透明になったからだ。携帯電話販売などのアルバイトも経験したが、研究者生活からの離脱は耐え難かった。その後、特別研究員の職を得たものの年収は240万円。年度末までの任期が迫る中、大学教員の公募にことごとく落ちたときも追い詰められた。

 非常勤講師の不安定な雇用が健康面に悪影響をもたらしている実態が昨年、日本産業衛生学会で報告された。回答が得られた263人(平均年齢49.3歳)の大学教員のうち、「専任教員」や本務校で常勤職のある「兼業非常勤」と、「専業非常勤」を比較したところ、「主観的健康感」や「不安抑うつ状態」「健康診断未受診」などの質問項目で専業非常勤の不良度が高いことが浮き彫りになった。

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