初めての五輪で銀メダルを獲得した、男子フィギュアスケートの宇野昌磨。天真爛漫で、愛されキャラと言われる宇野だが、2年前、表紙にもなった「AERA 2016年3月21日号」では、初々しく、まだ硬い蕾(つぼみ)を思わせる姿を見ることができる。
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「追いかけるだけではダメな日が来る。先輩たちから学んだのは気迫」
そう語っていた、当時18歳だった宇野のインタビューを当時のまま掲載します。
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表紙撮影の日は、高校の卒業式。地元テレビは朝から彼を追いかけた。
「高校での思い出はほとんどないですね。だって友達いないから。話しかけようとしてもぎこちなくなるんです」
実際は人気者で、いつも誰かに囲まれている。ただし、彼が感情をオープンにする姿を見た者はいない。“男は黙って、ひたすら氷に乗る”がモットーなのだ。だが、一度氷上に上がれば雄弁。口ではなく肉体からあふれるオーラで喜怒哀楽を語り、切れ長の目で観客を見つめる。
今シーズン、そんな彼がブレークした。トリプルアクセルと4回転を身につけてシニアに本格参戦すると、世界の頂点を競うグランプリファイナルで銅メダル。公式戦での成功者がまだいない4回転ループを練習で成功させた。たちまちフィギュアファンを虜にすると、フリーの演技後半に取り入れた「レイバック・イーグル」は、荒川静香のイナバウアー同様、“宇野の十八番”に。その技は他の選手の代名詞だったにもかかわらず、だ。
撮影中の「カッコイイ!」には、
「自分を好きじゃないので、顔はほとんど見たことがない」
と否定で返し、いつものように自分にダメ出しを続けるが、決してネガティブ思考ではない。
「『僕はダメだ』と思えるからこそ、『次は何やろう』と頑張り続けられるんです」
昨年末のグランプリファイナルでメダルを取って“現状維持”したことが、2月の四大陸選手権での気の緩みにつながったと分析している。3月の世界選手権で同じことを繰り返すわけにはいかない。
「やはり僕は、自分はダメだと思うくらいでちょうどいい。今日の自分には負けたくない。それが何よりのモチベーションです」
少年から青年へ。成長途上の背中に、決意が刻まれていた。(ライター・野口美恵)
※AERA 2016年3月21日号