
言うなれば「肛門の筋トレ」だが、筋力の低下だけでなく、排便時に誤った姿勢や力の入れ方をすることで、便失禁の症状を悪化させていることも実際に多いのだという。
腕立てや腹筋のように見た目にはわからないため、イメージが湧きにくいかもしれないが、理学療法士の適切な指導を受けながら外肛門括約筋を鍛えれば、肛門の収縮力を増強することは可能なのだそうだ。
また、バイオフィードバック療法とあわせて、自宅でできるトレーニングに「骨盤底筋体操」がある。やり方はとても簡単だ。
(1)呼吸を続けたままの状態で、骨盤底筋(肛門)に力を入れて10秒間閉じる
(2)その後、20秒間力を抜いて休む
(3)この動作を1セットあたり10~20回繰り返して、毎日3~5セット行う
■便秘は便失禁の原因にもなる
日本大腸肛門病学会のガイドラインでは、「適切な指導の下に行われた骨盤底筋体操の便失禁に対する有効率は41~66%」と報告されている。
「ただし、あくまで身体能力をアップすることが目的なので、薬や手術のように劇的な改善を期待することはできません。また、若い方に比べると、どうしても高齢の方は筋力が劣るため効果は限定的になります」(角田医師)
そのほかに気を付けるべきこととしては、食習慣の見直しが挙げられる。飲酒はほどほどに抑えることはもちろん、牛乳やヨーグルトといった乳製品、柑橘類のとりすぎなどで、便が軟らかくなりすぎてしまうこともあるという。
「それから生活習慣を伺うと、便秘に悩んであちこちの病院やクリニックに通った結果、複数の下剤を飲んで今度は便失禁に悩まされるといった方も多くいらっしゃいます。その場合は、下剤の種類や服用量を適切に制御するだけで症状はよくなります」
意外なことに、「便意を我慢しないこと」も大切なのだそうだ。
「私が診察した便失禁の高齢男性は、直腸を検査したところ、腸内に岩のように硬くなった宿便が大量に詰まっていました。便秘なら便失禁は起こらないと思われがちですが、それは誤解です。便を我慢して出さないと、腸内で水分が吸収されてどんどん硬く、大きくなってしまう。その結果、便秘になって下剤を飲んでも、大きくなりすぎた宿便は排泄されずに、その隙間を縫うように液状便だけが出てくるといった状態になってしまいます。これは『溢流性便失禁』といって、特に高齢者に多い症状です。そのため便意を催したら、我慢せずに、すぐにトイレに行くことも便失禁を予防する大切なポイントになります」
食事や睡眠と同じく、排便は毎日行うことだ。だからこそ、いつでも気持ちよく出せるように気を配りたい。(ライター・澤田憲)
※週刊朝日 2023年3月3日号

