※写真はイメージです (GettyImages)
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 ふとしたはずみで便が漏れてしまう。あるいは、気づかないうちに便が漏れている。こうした「便失禁」に悩む潜在患者は、国内に500万人以上いると言われている。高齢になるほど発症率は高まり、QOL(生活の質)を著しく下げる恐れもある。どんな治療法や対処法があるのか、専門家に聞いた。

【図表】便失禁にならないために気を付けたいトイレの作法はこちら

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「『検査の結果は問題ありません。大丈夫ですよ』。そうお伝えしたら、『本当によかった……』と涙を流して喜んだ高齢の男性もいらっしゃいました。『たかが便漏れ』と思うかもしれませんが、それくらい患者さんにとっては不安で一大事なんです」

 そう話すのは、横浜市にある「しらはた胃腸肛門クリニック横浜」院長の白畑敦医師だ。同院では、便失禁専門外来を開設し、これまで5年にわたって便漏れに悩む多くの患者を診察してきた。

 便失禁は、「無意識に、あるいは自分の意思に反して便が漏れてしまう症状」のことだ。

 冒頭の男性は、最近になってトイレまで我慢できず便を漏らしてしまう事態が頻発。不安に駆られ同院を受診したところ、飲酒が原因であることがわかった。その後、薬の服用とあわせて食習慣を見直すことで快方に向かったという。

 日本大腸肛門病学会のガイドライン(2017年版)によれば、65歳以上の男性の8.7%、女性の6.6%は便失禁の症状に悩まされているという。

 データだけ見れば少ないように感じられるが、「便漏れは家族や医師にも相談しづらく、そもそも病気だと認知していない人も多い」と白畑医師が指摘するように、人知れず悩んでいる高齢者はさらに多い可能性がありそうだ。

 都内の特別養護老人ホームに勤める介護福祉士の女性は、「施設に入居されている方のだいたい2~3割は便漏れに悩まされていた」と話す。

「原因はいろいろあります。お尻の筋肉が弱くてトイレまで我慢できない方もいれば、寝ている間に気づかずに便が漏れてしまう方もいます。あとは服用している薬の影響で便が水のように緩くなって、少し力んだはずみに漏れてしまったという方もいました」

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