ただ医療と違い、ビジネスの分野だと、日本に税金が入らないのであれば政府が投資する意味はないという意見もあります。
中内:それは内向きの考え方で、私はあまり賛成しません。経産省が主導して2018年にできた官民ファンドの「産業革新投資機構(JIC)」は、アメリカにいる優秀な目利きを集めて日本のアイデアを評価してスタートアップをどんどん作っていこうという発想だったと思います。しかし、あっという間にうまくいかなくなった。日本の国際性の後れ、メディアの勉強不足、システム作りのまずさを感じます。
筒井:産業革新投資機構はすごく可能性があったと思います。けれども幹部の報酬が高すぎるということがメディアで問題になって、中心メンバーが総入れ替えになってしまった。世論が足を引っ張る日本の悪しき平等主義が顕在化してしまったケースだと思います。現在進められているスタートアップ政策に、この経験が生かされているといいですね。
■日本ではなぜリーダーが育たないのか
筒井:制度面など、日本をどう変えたらいいかという議論において、この悪しき平等主義は大きく立ちはだかる壁になります。たとえば、定年制。なにもしなくてもその年齢まで会社にいられて、やる気のある若い人がなかなか上に行けない。あるいは定年が来たら、どんなに仕事ができる人でも即刻、会社を去らなければいけない。年齢が主要な評価基準になる悪しき平等主義です。
結局、個人の能力や業績を正確に評価できないシステムに問題があるのでしょう。つまり、学校の教育制度を含め人材育成のシステムが根本的に変わっていかなければいけないと思います。中内先生は日本の教育制度において、一番ネックになっているのは何だと感じますか。
中内:筒井先生のご専門でしょうが、やはり日本の文化、社会構造的に、一般の人がもっている教育に対するイメージ、あるいは教育制度に対する期待が他の国とは違っている。そしてやや時代遅れであるという感じがします。