中内:いいアイデア、シーズがあっても、それを世界レベルのビジネスに展開できる人材が非常に少ない。今の日本は間違いなくそういう状況だと思います。

筒井:アメリカの投資家は、よく「日本は宝箱だ」といいます。日本はいろいろなおもしろいものが結構安く手に入るから。

中内:ただスタンフォードで、医学部の産学連携プログラム「スパーク(SPARK)」やスタートアップ支援組織の「スタートエックス(StartX)」の話を聞くにつけ、おもしろいアイデアをもっている人が本当にたくさんいるんだなと感心します。シリコンバレーで一旗揚げてやろうと考えている人が世界中から集まってくるので、やはり量的には圧倒的に負けている気がします。

筒井:スケールも大きな話が多いでしょう。関連して制度面での日米の違いはどうですか。スタンフォード大学には、スパークやスタートエックスのほか、特許のライセンス化機関「OTL(Office of Technology Licensing)」が何十年も前からあったりします。これもいわば制度的なものです。あるいは医薬品などの認可のスピード感の違いもよくいわれます。

中内:医療分野では「100%の安全」を望むのが日本人の考え方です。なにかあると、日本のメディアは徹底的に叩くし、官僚など行政に携わる人たちも非常に保守的です。国民的な特性が制度面に反映しているので、なかなか簡単には変えられないと思います。新しい医療には必ずリスクがともないます。そのリスクとベネフィット(便益)を理解したうえでなにか新しいことをやる。そういう考え方がもう少し一般化しないとこういった状況を変えるのは難しいでしょう。

 日本の政府は「新しい医療を推進しよう」などと盛んにいっています。総論はそうなのですが、各論に入るとまったくそうではない。実際に厚労省やPMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)に行くと、たいしたサイエンスのバックグランドのない人にわけのわからない書類をあれこれもってこいといわれ、研究者は非常に消耗してしまいます。時間もかかるし、そのうちに資金がショートして、スタートアップの会社なら潰れてしまうわけです。

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