世界に名門大学は数あれど、スタンフォードのブランドは際立っている。なぜ、スタンフォードは常にイノベーションを生み出すことができ、それが起業や社会変革につながっているのか。スタンフォード大学で学び、現在さまざまな最前線で活躍する21人が未来を語った新刊『未来を創造するスタンフォードのマインドセット イノベーション&社会変革の新実装』より、スタンフォードで現役教授として活躍する中内啓光、筒井清輝両氏の対談の一部を抜粋で紹介する。
※「欧米の名門大学の中でも異質 スタンフォードの凄さは『人材』と『資金』のエコシステムにあり」よりつづく
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■日本の平等主義がイノベーションの足かせになっている
筒井:大学発のイノベーションという点で、中内先生の分野において、現在の日本の大学の研究レベルはどんな感じでしょうか。
中内:アメリカのVC(ベンチャーキャピタリスト)のなかには、少数ですが常に日本の大学に目を向けている人がいます。彼らは「日本は、シーズ(種)の数は少ないけれども、クオリティーは高い」といっています。つまり、日本の大学にいる研究者は、非常によくデータを蓄積していて、信頼性の高いデータに基づく特許やアイデアをそこそこもっているというのです。
アメリカの大学には、あまりたいしたエビデンスがなくても会社をスタートさせる研究者がたくさんいます。お金がふんだんにあり、たとえ失敗しても許される(ベンチャー精神に富む)社会だからそれが可能なのかもしれません。でも日本はそういう状況ではありません。だからこそ大学のなかにシーズが残っているという言い方もできるのかもしれません。
筒井:よくいわれるのは、日本は新しい科学技術はいろいろ生み出すけれども、それを社会実装するのに時間がかかり過ぎて、その間にアメリカや中国などに取られて追い抜かれてしまっている。科学技術力自体はそれなりにあるのに、それを使って産業移転して儲けることが非常に苦手といった指摘です。