アメリカはまったく違います。新しい治療をいち早く患者に届けることが優先です。もちろん、安全性も大事だけれども、効果が見込めそうな新しい治療法なら多少のリスクはしょうがないと合理的に考えます。日本との大きな違いは、こうした国民の合理的な考え方だと思います。
筒井:日本は、たとえば「狂牛病が出たら全頭検査」という国です。そういう発想は簡単には変えられないでしょう。そういう意味では、日本よりもアメリカでやったほうがいいと考える医療分野の研究者、スタートアップ、あるいは大企業も増えていくのでしょうか。
中内:たとえば、ノーベル賞を取った本庶佑(ほんじょ・たすく)先生のがん治療薬「ニボルマブ(製品名オプジーボ)」や「ペムブロリズマブ(製品名キイトルーダ)」は、日本の製薬会社の製品ですが、まずイギリスやアメリカで認可され、製品化されてグローバルに展開されて、日本でも使われるようになりました。
医療分野は必ずしもお金が儲かればいいという世界ではありません。先ほどいったように、新しい治療ができたらできるだけ早く人々に還元されたほうがいいと考えます。だから安全性の確認が合理的かつ迅速にできるシステムがあるところで製品化されるわけです。
しかし、日本の制度はあくまで安全第一。結果的には海外経由のほうがいち早く患者さんの手に届きます。そうだとしたら、自分たちの取り分は多少減っても、アメリカでやったほうがいいと考える人たちが増えて当然でしょう。私もその一人ですが。
筒井:シリコンバレーのエコシステムがあるのだから、そこにプラグインしてしまえばいろんなことがやりやすくなる。そういう発想は日本の政府にもあります。大学発イノベーションの目利きをシリコンバレーのVCに頼むとか、シリコンバレーに5年で1000人規模の日本人起業家を派遣してエコシステムに入り込んでもらうなどのスタートアップ政策が動き出しているところですね。