初詣でおみくじを引くときも良いときだけ信じ、運も味方についているから、より一層頑張ろうと思うのだという村上社長。ただ、風水や縁起は要所で大事にしている。同社の創立日(06年2月8日)は大安を選んだ。

 前出の石井教授は「企業の“イエ”意識が次第に弱くなっています」と指摘する。

 合理化やグローバル化に伴い、同族経営を脱する傾向や、企業内での“イエ”意識を生み出す基盤となる終身雇用制も崩れつつある。これらを反映し、宗教行為を長年取り入れている企業でも、一部の経営幹部だけが集まって参拝や神事を行うケースが一般的になりつつある。

「つまり、神を祀ることが、直接会社の構成員の一体感を高揚させる機能を果たしておらず、祭祀に加わることと、その会社の構成員であることに明確な関係が見いだせなくなっています。“イエ”を核家族化させ、祖先崇拝や氏神祭祀をないがしろにしていった流れは、確実に企業にも及んでいます」

 国学院大学の石井研士教授(宗教社会学)はこんな懸念も示す。

「わずかに企業に残されていた“イエ”的性格が変容していくとき、われわれ日本人は伝統的な祖先崇拝の最後の母体まで喪失することになるかもしれません」

 社員も経営陣も一丸になって、企業に我が身を託し、豊かさを追い求めた戦後日本は今は昔。格差が広がり、働き方の多様性も求められる時代に、神さまとの距離や付き合い方は、同じ会社の中にいても異なるのが自然なのかもしれない。

(編集部・渡辺豪)

AERA 2018年1月15日号より抜粋

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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