

歴史や伝統と縁遠そうな先端技術の世界も最後は神頼み。神さまもニーズにあわせて進化する。
寒風が枯れ葉を揺らす京都・嵐山。「枕草子」や「今昔物語」にも登場する法輪寺は713(和銅6)年、元明天皇の勅願によって行基が創建した。この名刹(めいさつ)の境内に勧請された、「電電宮(でんでんぐう)」という鎮守社が今、IT業界関係者の注目を集めている。電気・電波関係業界の発展を祈願する社で、パソコンなど電化製品のトラブルを防ぐご利益がある、との情報がSNSなどに飛び交っているためだ。
藤本高仝(こうぜん)住職(58)が言う。
「われわれの日常を考えると、電気やITにかかわりのないもののほうが少ないくらいです。そういう意味では、生活の安全を祈願させてもらっていると考えています」
「電電明神」を主神とする「明星社」は1864年の禁門の変の際に焼失。1956年、仮宮だった社殿を電気・電波関係業界の発展を祈願する「電電宮」として再興したのが、藤本住職の祖父に当たる当時の藤本賢祐住職だった。電電明神はもともと雷・稲妻の神さまとされていたが、賢祐住職が現代風にアレンジし直した。
「電気や電波って人間がつくったもののように思われていますが、例えば電子は太古から原子の中にあって、それを人間が利用させていただいているわけじゃないですか。お社を再興するのに電機関係の業者の皆さまの協力を仰いだ祖父は、時代の流れを見る目があったと思います」(藤本住職)
電電宮の再興時、寄付などでお宮を支えたのは、関西電力や松下電器産業(現パナソニック)といった、当時の関西の新興有力企業だった。
「未知の技術を切り開こうともがく発展途上の企業には神さまに守ってもらいたいという切実な思いもあって、ご協力いただいた面もあったのではないでしょうか」
藤本住職はこう続けた。
「今のIT業界も進化の過程にあって、安定している分野ではないようです。そういう人たちって神さま、仏さまにすがる思いが強い。特に最先端の技術者には切実感があります。やっぱり最先端というのは神の領域に近いんじゃないですか」