

人生の岐路で戸惑いながらも時代の先端を走り続けてきた働く女性たちが、いま「定年」を迎えつつある。ロールモデルなき時代のステージに待ち受けるものとは。
【調査結果】定年退職後に再就職した60代に聞いた!「再就職先の探し方は?」
脱兎のごとく駆け出し、会社を後にした。それが、30年以上勤めた広告会社を定年退職した女性(64)の最後のひとコマだった。
「事前に用意していた挨拶メールを夕方5時にクリック。7時に部の仲間が送別会を設定してくれていたので、片付けをしてあとはそこに向かうだけ。そう思っていたら、色々な人に声をかけられて、わぁ~遅刻しちゃう、と走って去ったのが会社の最後となりました」(女性)
テレビドラマで見られるような“花束贈呈ののち挨拶、そして見送られて”といったようなシーンとはかけ離れている。しかし「かえって良かった」と女性は言う。
入社したころは広告業界が最も華やいでいた時代だった。緑色の髪や紫色の背広を着たクリエイターたちに、当初はカルチャーショックを覚えたが、遊び心のある仕事は楽しかった。しかし2000年代以降、メディア不況などによって職場は世知辛くなり、人間関係も希薄に。仕事仲間や取引先、仕事そのものへの愛着はあるが、社員を大事にしない会社に対してはいい感情を抱けなくなった。
「定年が視野に入ったとき、石にかじりついてでも勤めあげようと思いましたが、その後はきっぱり辞める。最後の日は、人知れず去りたいと思いました」
実用書の出版社に勤め、16年、定年を迎えた女性(61)も、最後の日に特別の感慨はないという。
「定年を迎えた日も、その翌日も同じ席に座り、同じ仕事をこなし、何も変わりませんでした。唯一変わったことといえば、立場が嘱託社員になり、給料が大幅に減ったことです」
ところが定年後、仕事の量が増えた。
「給料が少なくなっているのにどういうことか……」とモヤモヤしたが、人事部の配慮があったのか、比較的楽な現在の部署に異動になった。