それまで毎年、何度も海外に出て、いろいろな国・地域を訪れていたので、世界の大学のことをよくわかっているつもりでした。ところが、実際に英米の大学で研究する、生活するという経験を1年間したことで、はじめて心の底から「日本の後れ」を理解できたのです。
ただ、今の若者たちには「日本はいい国だし、別に海外に出なくてもいいか」という風潮がすごくあると聞きます。
日本のマスコミはどこも同じようなニュースを流しています。しかも、日本の国民が喜ぶようなことしか発表しません。インターネット経由の情報にしても、いろいろなバイアスがかかっています。そういう情報環境では、どんどん井のなかの蛙状態になって、危機感がもてず、「日本はいい国」としか思えないのも、ある意味当然かもしれません。
しかし、先に述べたように、危機感がないと社会は良い方向に変わらないでしょう。だからメディアは日本の良いところだけでなく、悪いところも積極的に発信しないといけない。そして、若者たちは積極的に海外に出て世界の状況を実際に見聞きして、「日本の後れ」をよく理解してほしいと思います。
筒井:日本のメディアの体質は、いわば同調圧力の一種なので簡単には変わらないでしょう。たとえば、成功した人の足を引っ張るような言説がワイドショー的なメディアで受ける傾向は、かつてのホリエモン叩きなどの頃から、ずっと続いています。日本の社会では、相変わらず「出る杭は打たれる」わけです。
アメリカにも、たとえば、イーロン・マスクへの反発はありますが、ホリエモン叩きのように成功者に対するジェラシーがものすごく強いかというと、それほどではないと思います。
「日本の後れ」の理由としては、行政と民間に壁があって風通しが良くなかったことも挙げられるでしょう。専門知識をもっている官僚は、外の話をあまり重視しません。しかし新しい制度を作る時には、現場でやっている民間のステークホルダーたちの意見が大事になってきます。その風通しが悪いと制度改革は良い方向に進みません。