強い積極性で新しい出会いを作るというのも共通点です。スタンフォード及びシリコンバレーのエコシステムのなかには、有名な研究者や有名な起業家がたくさんいます。そういう人たちにどんどん話を聞きに行って、アドバイスをもらうことが可能だし、とても大事なことです。本書に登場する人たちは遠慮しないで、全員が積極的にドアを叩いています。

 全員から前へ前へ進む精神がすごく感じられます。この制度は変わらないだろうと思われているものを変えようとしたり、科学的には難しいだろうということを研究したり、とにかく常識を破ることに挑戦しています。それも大きなスケールで、世界を相手にして考えていたりする。いろいろな意味でスタンフォード出身者らしい発想、行動だと思います。

中内:なかには、スタンフォードで学んだことを日本で実践しようと思ったけれども、組織の壁に阻まれて起業できなかったという苦労人もいます。その点に関連して、筒井先生にぜひお聞きしたい。日本の社会はまだ「追いつけ」という発想が強くて、アメリカやヨーロッパの制度を日本に取り入れれば、社会が良くなると考えているケースが多く、特に行政官にはそういう人が多いと感じます。

 しかし、失敗例がたくさんあるわけです。中途半端に欧米のシステムを理解して、それをそのまま日本の社会に持ち込もうとするからうまくいかない。先ほどのJIC(経産省が主導し2018年にできた官民ファンド「産業革新投資機構」)の話もそうでしょうし、たとえば、NIH(アメリカ国立衛生研究所)をまねしたと言われるAMED(国立研究開発法人 日本医療研究開発機構)など、見かけをまねしているだけで、中身はあまり有効なシステムになっているとは思えません。

 欧米に限らず、他国の進んでいる制度、システムを日本に持ち込む際には、やはり社会的あるいは文化的な違いをよく理解したうえで、専門家がしっかりと吟味、あるいはアレンジして、日本の社会でもちゃんと通用するような形にして制度改革をしなければいけないと思います。こういう当たり前のことが、どうして日本にはできないのでしょうか。

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