世界の複雑さからすると、占いの体系は実にシンプルです。変数がとても少ないんです。ホロスコープは複雑そうに見えますが、12星座プラス7惑星の変数です。ごく限られた数の組み合わせによって、世界の多様性の全部を説明してしまうというのが、体系的な占いの基本原理です。つまり世界を縮約できる。これは実際に占う側にとってはトラップでもあり、面白さにもなります。
茂木:行動のきっかけになるというのが、占いの重要な点だと思います。狭い科学主義では、行動のきっかけは作れないんです。科学は統計が基本なのですが、AIも含めて、ビッグデータができて初めて何かが言えるんです。
ところが初めてやることに関しては、ビッグデータがありません。ブルーオーシャン、イノベーションの現場にはデータがないんです。
例えばスティーブ・ジョブズがiPhoneを出す時に、当たるのか当たらないのかは科学的には予想できない。でもiPhoneを出すという、その行動をしなかったら何も始まらないわけです。
●体系性という魅力
鏡:ジョブズは禅をやっていましたが、いま「マインドフルネス」のブームがありますね。禅的な瞑想って、基本的に欲から解放されようというものなのに、仕事のパフォーマンスを上げるために禅を使うのは、本来の意味とのねじれを感じます。
茂木:マインドフルネスは、完全にクリエーティビティーの支援ツールになっていますね。
そこで面白いと思うのは、現代社会が複雑になるなかで「パーソナル・オピニオン」(個人の主張)の価値が下がっているということです。だから、なんらかの体系のようなものがないと人に信用してもらえない。
占いには雰囲気として体系性があります。それが複雑な社会のなかで、占いを魅力的なものに感じさせているのではないでしょうか。
鏡:合理的・非合理的ということを言いますが、合理的と私たちが簡単に言える部分というのは、脳がやっているいろいろな働きというか、アルゴリズムの、わりとわかりやすい表面的な部分だと思うんです。意識がどうやって発生しているかとか、どうやって直感が働くかとか、リアリティーをどうやって感じているかということは、表層的なロジックでは、拾いきれない。占いはその深層の論理を反映している気がするんですよね。