「息子にとって、私は『話を聴いてくれる大人』ではなかったのかもしれない。心の不調に敏感になるのも大事ですが、前もって大人が子どもの安全基地になることは何よりの予防になる」

 長男を亡くして11年。長い年月をかけてたどり着いた結論だった。

●子どもを信じない大人を 子どもたちは信じない

 自治体も、若い命を救う方法を模索している。

 森さんの長男が亡くなった06年、足立区は自殺者161人と東京23区でワースト1になった。以来、自殺対策に力を入れ、16年までの5年間は減少傾向にある。若年層についても09年、他区に先駆けて自殺予防教育を導入。現在は公立の小中学校で「SOSの出し方教育」の出前授業を続けている。授業後は「大人に相談しようと思う」と答える生徒が増えるなど、一定の効果を上げている。

 昨年からは、夏、冬、春の長期休業明けに連絡なく欠席した生徒の安否確認も始めた。電話が通じなければ教員が自宅へ行き、ドアをノックする。同区衛生部こころとからだの健康づくり課の馬場優子課長は言う。

「子どもだけでなく、親御さんのほうも生きづらさを抱えていることも少なくない。親子とも、ここまで生き抜いてきた自分は『大切な存在だ』と誰かに認めてほしいはずです」

 自分を肯定できて初めて自分を大切にできるのだが、日本の子どもは諸外国に比べて自己肯定感が低いというデータがある。これは、日本の大人に「子どもを尊重する=甘やかす」という考え方が色濃く残るからではないか。

 子どもを信じない大人を、子どもたちが信じるはずがない。変わるべきは大人だ。生きづらさを抱える人々と向き合う山本さん、長男を失った森さんの「子どもを軸に」という言葉を、改めてかみしめたい。(ライター・島沢優子)

AERA 2017年9月18日号

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