「死んでやる」と言う長男を同級生らはトイレで取り囲み、「こいつ死ぬって。最後だからズボンを脱がせよう。明日は来るな」とズボンを脱がせた。その日のうちに長男は命を絶った。傍らにいじめを示唆する遺書があった。

「まさか自分の息子が死を選ぶなんて、信じられなかった」

 と森さん。小2から少年団でバレーボールを続け、中学でもバレー部。厳しい指導に耐えてきた長男は根性がある、強い子だと思い込んでいた。

「息子は逆に、嫌なことや理不尽なことも我慢しなくてはいけないと考え、それが限界に達したのかもしれない」

 長男の自殺後は、「親の対応が悪かったのでは?」「親なのに気がつかなかったの?」という声も聞こえてきた。不眠症などに苦しみ、精神科に通って薬の力を借りてやり過ごした。

 次男と三男の子育ての手が離れた11年に上京。知らない土地で知らない人と人生をやり直すと決めてケアマネジャーの資格を取り、新たな人生を歩み始めたが、長男を失った喪失感が消えることはなかった。

「同じ悲しみを抱えた人と話したい」

 ネット検索でヒットしたのが、「グリーフサポートせたがや」だった。

 グリーフは「悲嘆」の意味。大切な人を亡くした人をケアする組織だった。グリーフケアの講習会に参加し、「元気のない子がここに入ってきたらどうするか」という質問に自信を持って「励まして理由を尋ねます。どうして元気がないの?って」と答えたら、こう言われたという。

「それは森さんが心配だからだよね?森さんの意思でしょ? でも、大切にするべき軸は、自分ではなく、向き合う相手である子どもに置いたほうがいい。励まされることさえ、子どもは望んでいないかもしれないよ」

 グリーフケアは生きづらさを抱える子どもにも有効だ。何も言わず、ただただ寄り添う。これは、サポートハウスの山本さんの姿勢とも重なる。

 森さんにとってグリーフケアを学ぶことは、我が子の自殺を防げなかった自分自身と向き合うことでもある。「あんなこと言っちゃった……」と泣き叫びながら当時を思い出す作業は、過酷を極めた。亡くなる直前、長男は突然「競馬の騎手になりたい」と言い出した。部活がハードなのに減量も始めた。来年は3年生なのに、ばかなことはやめなさい──。森さんはそう言って取り合わなかった。いま、こう思う。

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