今度こそ生きていても仕方ないと思ったとき、金沢市内の自宅を開放して生きづらさを抱えた人たちの日常生活を支援する「サポートハウス」代表の山本実千代さん(57)と出会った。
「大人は敵」と思い込む女性は当初、住人たちが「おばちゃん」と慕う山本さんにも心を開かず、わざと目の前でたばこを吸ったり「ババア、ウザいんだよ!」と暴言を吐いたり。ところが、山本さんは動じない。何も言わず黙って、ただただそばに居続けた。
「こっちも人間。腹が立てばけんかもしたし、『ウザいおばちゃんです!』とジョークも言った。『この子を何とかしなければ』と肩に力を入れるのをやめれば、大概のことは待てる。大人の都合ではなく、子どもに合わせることが大事なんです」(山本さん)
不登校の女子高生から軽度の障害を抱えた大人まで、さまざまな人との共同生活。山本さんは女性にも、掃除や洗濯の当番をやらせた。自身が取り組む「子育て農業応援団」も手伝わせた。
「土を触ると人は穏やかになり、周囲と交わることで心も耕せる。そもそも、生きづらさの根っこは孤立。その子の心に寄り添う人がいないと、子どもの心は孤立し簡単に壊れてしまう。黙って話を聴いて寄り添うことが一番だと思う」(同)
土を触ることに限らない。台所に立って料理をする。一緒に食べる。空腹を満たす充実感を誰かと味わうことで、子どもの心はほぐれるという。
●励ましも心配も望まない 大人は子どもの安全基地に
前出の阪中さんは長く、自殺予防プログラムの出前授業も行っている。中学生や高校生に「信頼できる大人はどんな人?」と尋ねると「話を聴いてくれる人」と答える生徒が多い。
NPO法人「暮らしのグリーフサポートみなと」代表の森美加さん(46)も、このことを実感している。06年に中学2年生だった長男をいじめによる自殺で亡くした。いじめを誘発する担任の不適切な発言にも、長男が言葉の暴力を含む激しいいじめを受けていたことにも、気づかなかった。