●怒りのパワーを応用
怒りにはプラスの側面もある。柿木さんは言う。
「怒りが発生すると、アドレナリンとノルアドレナリンが大量に分泌されます。これは心身ともに活動のピークです」
アドレナリンは交感神経に作用し、心臓が出力最大で動いて血流を増やし、全身の細胞の活動に必要な酸素とブドウ糖を供給する。体のコンディションは、戦いに最適化される。
ノルアドレナリンは脳を活性化し、相手に対する攻撃や敵意を研ぎ澄ましていく。
柿木さんによると、一流のスポーツ選手や格闘家は、試合時、「大量のアドレナリンとノルアドレナリンを分泌しているはず」だという。
「持続しない瞬発的なパワーですが、怒りをネガティブに捉えず、パワーを転換してスポーツや仕事に応用すれば、効果も期待できるはずです」(柿木さん)
怒りのパワーを建設的に使う術はほかにもないものか。
「我慢せず、喧嘩しては」と提案するのは、首都大学東京教授で社会学者の宮台真司さんだ。自身にとって大切な人間関係の多くは、喧嘩で始まったという。映画監督の園子温さんと親友になるきっかけもそうだ。
「ロフトプラスワンで行われたイベントで、罵倒のし合いになり、『よし、外に出ようじゃないか、このやろう!』となった。主催者さんが止めてくれてイベントを続行しましたが、それから、園子温から出演依頼が来るようになったんです」(宮台さん)
ただし、「喧嘩には作法がある」という。喧嘩をするに足る相手を選ぶこと。信頼できるギャラリーを設けること。そして、決してやりすぎないこと。
「ギャラリーが止めてくれないと、本当に殴り合いになって困るでしょう(笑)。喧嘩を買うことで、相手の信頼度も上がるし、やりすぎるとあさましいと評価が下がる。喧嘩とは、社会関係をベースにしたお互いの読み合いです」(同)
●感情発散うまい大阪人
怒りをほどよくぶつけつつ、どこかで理性的な判断を下していく。このさじ加減を、宮台さんは子ども時代の喧嘩を通じて学んだ。だから、テレビ番組や学会での論戦中も、「相手が感情的になればなるほど、冷静に観察している」という。
「ぼくの少し下の世代から、怒り方も喧嘩の仕方も知らず、怒ることを怖がっている節がある。喧嘩の仕方を身につけたほうが、コミュニケーションや人間関係が広がるはずです」(同)
「怒りは、小まめに楽しく発散すればいい」と語るのは、関西大学名誉教授で笑い学を研究する井上宏さんだ。