いま発達障害への社会の理解は十分といえず、根拠のない誤解や偏見は根強い。しかし、先の早川教授は心配する必要はないと話す。
「ADHDだから生きづらいと考えるのでなく、龍馬のように、必ずその人の能力が生きる領域があります」
また、龍馬は性病の梅毒に侵され、アルコール依存症だったという俗説もある。梅毒の根拠の一つが、幸徳秋水が書いた『兆民先生』という中江兆民の伝記だ。その中で、兆民の言として、龍馬について「其額は梅毒の為め抜上がり居たり」と書かれている。確かに、残された龍馬の写真を見ると、生え際が後退している。
梅毒は、「梅毒トレポネーマ」という細菌による感染症だ。
早川教授は言う。
「幕末の日本には吉原や島原のような遊郭がいたるところにありました。幕末には多くの男性が梅毒に侵されていたこともわかっています。龍馬は皮膚の発疹や脱毛があった上に女性関係が派手だったことも知られているので、梅毒であっても不思議ではないと思います」
●どこまで信用するか
アルコール依存症については、妻お龍が「龍馬の酒量は量りかねます」という言葉を残している。
ただ、高知県立坂本龍馬記念館(高知市)の主任学芸員、三浦夏樹さん(44)は懐疑的だ。
「龍馬が梅毒だったということもアルコール依存症だったことも裏づける資料は発見されていません。龍馬が梅毒だったと記した『兆民先生』の記述は伝聞で、伝聞も貴重な資料ですが、それをどこまで信用するかとなると判断は難しい。アルコール依存症についても、同じです」
兆民以外で龍馬のことを梅毒と語っている人はなく、兆民自身が龍馬と特に親しかったわけでもないとされる。兆民の勘違いだったのかもしれない。
いずれにしても、幕末のスーパーヒーローの持病は何だったのか? 解明される日は来るか。(編集部・野村昌二)
※AERA 2017年6月12日号