日本で最も多くの通勤客が往来する首都圏。JR東日本にとって、通勤電車の改良は経営戦略としても最優先課題だった。そこで掲げたコンセプトが「寿命半分、重量半分、価格半分」。民営化から6年後の93年に登場した209系にはこのコンセプトの下、その後のJR東日本の通勤電車の基礎となる設計思想が詰め込まれた。

 寿命半分というと質を落としたような印象を受けるが、菊地次長は「コストカットのため、メンテナンスを極力しないという方針に切り替えた」と説明する。それまでの列車は6年に1度程度「全般検査」と呼ばれるオーバーホール(103系なら短くて約2週間)をして、新車同様に生まれ変わって30年以上走らせるという方式だった。

●かっこよさは無関係

 だが、これでは保守管理費がかさみすぎる。209系では部品の耐久年数をむしろ上げ、オーバーホールせずに15年近く走らせて車両を更新する方針に変えた。省エネで一編成内のモーター車も減らした。

 保守管理費などの経費削減は会社側にだけ都合のいい話とも思えるが、菊地次長は「通勤列車は数も非常に多い。低廉な運賃を実現するためにはコスト削減は大切」と強調する。その後登場したE231系はそれまで中距離用に扉数を少なくした近郊用、ロングシートで扉の多い通勤用の2系統に分かれていた区別を「一般形電車」として一本化し、仕様を統一した。

 列車内の機器の動きなどを一元的に管理する「列車情報管理装置」(TIMS)を導入し、毎日の「出区点検」のほか様々な検査を自動化するなど保守管理費を下げた。06年に投入されたE233系は209系の故障が多かったことをふまえてモーター車の数を元に戻し、主要機器を二重に設置、車体強度もさらに強化した。

 15年に先行車が山手線に投入されたE235系。初期不良もあったが、安全面とメンテナンスのしやすさをさらに進化させ、網棚や連結部分の上すべてに映像情報画面をつけた。一編成に2カ所程度だった車いすスペースをフリースペースとして各車両1カ所つけるなど、ベビーカーや車いす客の利便性が向上している。

「通勤電車はかっこいいからといって利用客が増えるわけではない。通勤時間を少しでも快適に過ごしてもらい、遅れず故障せず安定して運転するのが使命です」(菊地次長)

(編集部・福井洋平)

AERA 2017年4月10日号

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