「その選手の素材を生かすにはどんな環境を用意すべきか。それを考えるのが球団であり、スカウトの仕事。選手の能力に惚れ込んだとしても、それが現状の球団に見合わなければ指名を見送ります。彼という素材を最も生かせるのが日本ハムであり、素材を最も輝かせる起用法が二刀流だったということです」

●一心不乱に取り組む

 4年目のシーズンを終え、ここまで「順調に成長している」と大渕SDは語る。

「ある程度実績を重ねれば、野球以外のものにも普通は目移りします。しかし、彼は高校時代同様、自らに高い目標を具体的に課し、一心不乱に野球に取り組んでいる。それが成長を支えていますよね」

 もしあの時にアメリカに渡っていたら──。

「メジャーの育成システムでは、ようやく試合に出場するぐらいの段階ではないでしょうか。まず二刀流に挑戦することもなかったでしょう」

 16年シーズンに大谷はパ・リーグのMVP(最優秀選手)となり、投手とDHの両部門でベストナインに輝いた。最速記録の更新だけでなく、170キロという人類未踏の域への突入も期待してしまう。それを誰より自覚しているからこそ、現在の大谷が具体的な球速の数値目標を口にすることはない。期待に応えたいという気持ちの一方で、数字に縛られたくないからだ。

「記録というのは、目指す気持ちがあって初めて伸びていくものだと思う。ただ、10年後に165キロを抜く選手がひとりやふたり、出てきてもぜんぜんおかしくないと思うし、むしろそれを望んでいる自分もいます」

 22歳ながら、子どもたちに夢を与えるというプロ野球選手の使命も口にする。

「僕だって165キロなんて夢のような数字でしたけど、出してしまえばそれが当たり前になった。プロ野球選手を夢見る子どもたちに“自分にもできる”と信じさせることで、日本の野球界全体がレベルアップしていくものだと思います」

●来オフメジャー移籍?

 日本ハムは来オフ以降、大谷のメジャー移籍を容認する意向を固め、それを公にした。前出の大渕SDは言う。

「大谷という素材を最も生かせるのがアメリカであるならば、それを純粋に応援しようというスタンスで、その日が来た時のために今から準備をしておこうというだけのことです」

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