この短時間睡眠による体への負荷が繰り返されると、脳卒中や心筋梗塞を引き起こす要因となる。
時間外労働削減のため、週半ばの水曜日に「ノー残業デー」を設ける組織や企業があるが、これは睡眠リズムの観点からも理にかなっている。
海外の研究で睡眠時間が異なる4種類の群(9時間、7時間、5時間、3時間)をつくり、一瞬の反応が必要な作業をしてもらったところ、3時間の群は日に日に反応速度が遅くなり、特に3日目に大きく低下した。つまり、短時間しか眠れないほど忙しくても、3日目は早く帰って寝たほうが効率がいい。
●夜勤は体に過剰な負担
睡眠の質を大きく低下させ、過労死につながる要因はこのほかにもある。
夜勤やシフト勤務の人は、午前中や昼間などに睡眠を取らなければならない。だが、人間には本来、「眠りやすい時間帯」と「寝つきが悪い時間帯」があり、特に朝10時頃と夜7時頃は眠りにつきにくい(※注3)。しかも昼間はサーカディアンリズム(体内時計)の影響で寝たり起きたりする断続的な眠りとなりやすい。たとえ夜勤専従でも、眠りを促すホルモンであるメラトニンの分泌量が夜間より減少し、眠りにくくなる(※注4)。
さらに、夜勤は人間がもっとも眠い時間帯に起きて緊張しながら仕事をするため、「酒気帯び運転以上に危険」な状態を示す研究結果(※注5)もある。この研究では、深夜1時から作業成績が明らかに低下し、3~7時までは血中アルコール濃度0.03%(酒気帯び運転基準)時よりも成績が悪くなった。
看護師には夜勤が多いため、日本看護協会は2013年、ガイドラインを発表した。
「ストレスによるうつ病」と不眠にも、強い相関関係がある。特に、過去の不快な記憶や将来への不安は不眠につながりやすい。海外の研究では、「将来に不安を持っている人は持っていない人と比べて、徐波睡眠の時間が最大3分の1まで短くなった」と結果が出ている(※注6)。
注1)Gujar et al(2011)
注2)佐々木司、酒井一博(1997)
注3)Lavie(1985)、Strogatz(1987)
注4)Sack et al(1992)
注5)Dawson、Reid(1997)
注6)Kecklund、Akerstedt(2004)
(医療ジャーナリスト・福原麻希)
※AERA 2016年11月21日号