阪神・淡路大震災、東日本大震災、熊本地震……。数々の大震災に続き、危機が迫っているのが首都直下地震だ。過度な人口密集地域であり、大量の帰宅困難者も予想される。東京だからこそ被害が拡大する恐れがある。
兵庫県明石市で2001年7月、市が主催する花火大会に集まった観客が、混雑した歩道橋の上で転倒して多数の人々が巻き込まれ、11人が亡くなり、247人が負傷した。11人はすべて小学生以下の子どもや高齢者だった。
「群衆なだれ」と呼ばれる現象が起きたと見られており、1時間あたり約1万4千人しか通行できない歩道橋に、3万人も押し寄せたのが原因だった。人の流れに沿って歩いていて、いつのまにか前に進めなくなる。後ろからは強い力で押し続けられる。個人の意思では、群衆から抜け出すことはできない。
●震度6強~7を予測
廣井悠・東京大学准教授らのシミュレーションによれば、首都圏で大規模震災時に帰宅困難者が一斉に帰宅すれば、発災から1時間後には1平方メートルに6人以上の密度となるエリアが中央区や渋谷区などあちこちで発生する。この密度は、群衆なだれにつながりかねない状況だという。特に心配されるのは、ターミナル駅や、大きな道路と道路が交わる交差点、橋など。駅は、地下街や周囲のビル街から出てくる人たちが集中して危ない状態となる。
「東日本大震災の経験で、あの時は帰れたから大丈夫だと思っている人が多い」(廣井准教授)
東日本大震災で、東京では鉄道が止まり、500万人以上が一時帰宅困難になった。ただし地震発生が平日の昼間、震度5強程度だったため、帰宅は分散した。さらに鉄道は夜には一部運転を再開している。首都直下地震では、都心の多くで震度6強、一部で震度7が予測されている。震度や発生時間帯によっては、東日本大震災の時とは比べものにならない混乱が生じる。
東日本大震災時は、首都圏では揺れや火災による被害は大きくなく、帰宅時の道筋に支障はなかった。首都直下地震では、都心から郊外に帰るには、環状7号線と8号線の間を中心とする木造住宅密集地域を通過しなければならない。火災危険度が最も高いところであり、延焼に巻き込まれる可能性もある。