●さっと絵が描ける環境
今回のストーリーにタコが出てくると監督から聞かされたスーパーバイジング・アニメーターのマイケル・ストッカーさんは、「ドリー」の舞台のモデルとなったカリフォルニア州のモントレー・ベイ水族館にアニメーターたちを連れていき、実際に手でタコを触ってみた。
「二十数キロの重さのあるタコが僕の腕に絡みついてきた。『こいつ誰だ?』と、まるで僕の皮膚の味を試すようにね」
触手の動きや、350以上ある吸盤がひとつひとつバラバラに動く様子に驚愕した。
「タコは身体がパンケーキみたいに伸びたり、小さな穴から脱出できたり。まっすぐ伸びて擬態で観葉植物になりすますこともできる、とひらめいたんだ」
と、キャラクター・アートディレクターのジェイソン・ディーマーさん。コンピューターでタコの3D人形を作り、関節や骨がなくグニャグニャに動く触手の動きや、吸盤がくっつく動きを何度もテストした。
ドリー、マーリン、ニモという前作にも登場したキャラクターの動きの特徴は一切変えることなく、ハンクをフィットさせることにも苦心したという。
キャラクター・アニメーターとして、幼少時代のドリーやドリーの両親の動きを担当した原島朋幸さんも、実際に魚を飼い動画を撮影して繰り返し動きを観察し、ヒレの使い方や独特のターンなど細かい動きを学んだ。
「監督からは、『ナショナル ジオグラフィック』のようにリアルな動きを、という要求が何度もありました」
と振り返る。大きな魚が動けば水の流れができ、隣にいる小さな魚はそれに反応する。そんな動きも地道に表現したという。
取材中、一つ気づいたことがある。アニメーション制作の現場はほとんどの作業がコンピューター化されているように見えるのだが、ピクサースタジオ内の机の上には、紙や色鉛筆、クレヨン。さっと絵が描ける環境があちこちにあった。
ハンクのキャラクターデザインを担当した前出のディーマーさんは、同僚がプレゼンしている間じゅう、手帳にドリーのイラストを黙々と描いていた。