「映画の制作自体は終わっても、長い間つきあったキャラクターから離れることはなかなかできないよ」
と言いながら。廊下の壁には彼が水彩で描いたドリーの絵。共同監督のアンガス・マクレーンさんもこんなことを口にした。
「絵を描くこと、そして大人になってもやめずに描き続けることが、この世界での成功の鍵」
「ドリーを飼わないで」
日本でのサラリーマン経験を経て米国に移住した前出の原島さんは、ドリームワークスでアニメーターとして修業し、昨年ピクサーに転職した。世界中のクリエイターがあこがれるピクサーで働くために必要なのは、技術と情熱、そして「チームワーク」だという。
「この人と一緒に仕事をまたやりたいなと相手に思ってもらえることですね」(原島さん)
スタントン監督もこう話した。
「先を見越して行動できる人、どんな時でも一生懸命働いている人は、運が巡ってきたときにそれをつかみやすい」
モントレー・ベイ水族館が、ピクサーのリサーチに全面的に協力したことでも話題を呼んだ「ドリー」。飼育繁殖部長のジョン・ホーシュさんは、研究熱心なアニメーターたちに感心する一方で、フィクションと海洋生物の保護のバランスを懸念していた。ナンヨウハギは、サンゴ礁につく海洋植物を食べて“掃除”する役割を果たす魚だ。
「『ドリー』のヒットで野生のナンヨウハギを飼おうという人が増えれば、サンゴ礁に重大な被害を与える」(ホーシュさん)
「ニモ」が公開されたとき、子どもたちは水槽で飼っていたクマノミをシンクに流して、自由にしようとしたという。
ホーシュさんは言う。
「現実の魚たちと向き合うわれわれが、片方の足を架空のアニメの世界に突っ込むチャレンジはそこにある。海洋環境を守るため、人々を啓発するようなことを、発信していきたい」
(ジャーナリスト・長野美穂)
※AERA 2016年7月18日号