「以前は3千万円台が主流で、坪単価300万円を超えると売れ行きが悪くなる傾向がありました。でもいまは、4千万円台まで達しています」(久光社長)

 そんな中、立地も多様さを増しつつある。

 コンパクトマンションの立地といえば、東京都内では千代田、新宿、中央、港、渋谷の5区が相場だったが、最近では23区なら「都心に電車1本」「複数路線が走っている」「商業施設が充実している」と駅に魅力があれば、買い手はつくという。

 月1400万人が利用するというリクルート住まいカンパニーの「SUUMO」で、ユーザーから問い合わせがあった23区内の賃貸物件のデータを立地で見ると、一番人気が高いのは「駅から5分以内」だった。

 この数年の変化を追うと、また別の流れも見えてくる。値段が下がる築21年以上でもいいという人が、6年間で約10ポイント増えているという。

「今後は、中古物件への注目も高まっていくでしょう」(SUUMO編集長の池本洋一さん)

 実際、少し先の環境変化も考えてコンパクトマンションを買う人は少なくない。

 44平方メートル、1LDK、4500万円。輸入雑貨店を営む女性(48)が、JR大崎駅(東京都品川区)から徒歩3分の新築マンションを買ったのは4年前。会社勤めのころからコツコツためた貯金と、自営業の親から借金して現金で払った。

結婚しても住みたい

 シングルだから、狭くても大丈夫と思ったのだろう、と考えるのは早合点。確かに今は愛との暮らしだが、パートナーと住むことになっても「この部屋にダブルベッドを置いて、一緒に暮らそう」と買ったのだ。

 女性がここを選んだ理由は、二つあった。

「マンション内のお気に入りは四つのゲストルーム。5人くらい泊まれる広さで、1泊1部屋5千円なんです。自分の部屋は狭いけれど、友人たちが来ても大丈夫」

 パーティールームも含めた「共用スペースの手厚さ」が第1の理由だ。コンビニなども含め、近所で使えるものはすべて「共用スペース」と考えた。

 もちろん、生活設計が変わったときの「保険」もかけている。山手線の駅から近いという「利便性」があれば、万一、人に貸すことになっても、そこそこの家賃収入が期待できる。それがもう一つの理由だった。

 思えば元祖コンパクトマンションは、昭和30年代に登場した公団住宅ではないだろうか。専有面積平均40平方メートル以下でも、当時はサラリーマン家庭の「あこがれ」で、親子に幸せな生活の場を提供した。

 狭くてもムダなく、暮らす。コンパクトマンションに注目が戻ってきているのは、案外、日本人の生き方そのものが原点回帰しているからかもしれない。

AERA 2015年11月30日号

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