「狭くたって都心に住みたい」「1人だから」……そんな固定観念を超えて、コンパクトマンションが広がりつつある。(編集部・吉岡秀子)
専有面積43平方メートルと狭いながらも2LDK。ウォークインクローゼットを設けるなど収納にも配慮しつつ、洗濯は宅配クリーニングを、キッチン周りは中食を多用することを想定し、コンパクトにまとまっている。
建築家・黒崎敏さんの事務所「APOLLO」(東京)が、新日鉄興和不動産へ実際に提案した部屋の一例だ。
これなら、1人や夫婦なら快適に暮らせそうだ。でも、黒崎さんの設定は「夫婦と子ども1人の3人家族でも暮らせる」だ。
「家族の暮らし方が“個化”していますから、3人家族なら3室が理想。マンションの使いやすさの鍵は、広さよりも部屋数です」(黒崎さん)
想定したのは、若いころから都心で働き、都会暮らしを体験したカップル。互いに都市の中で住む術と快適さを知っているから、子どもができても離れようとは思わない。むしろ、教育環境が整っている都心の方が「子どものため」と考える夫婦だ。
リビングと子ども部屋を隔てる壁は可動式。子どもが独立して夫婦2人に戻ったときの使い勝手を考え、広いリビングに早変わりできるようにした。
そもそも黒崎さんが見る、都心のコンパクトマンションに人気が出た理由はこうだ。
●モノよりも都市の安心
世帯所得が減ってきたという経済事情が一番だろうが「本は近くの図書館で読む」「コンビニを冷蔵庫代わりに使う」「大勢でのパーティーは近所のレストランで」……身軽に生きたいミニマリズムの流れに沿っている動きなのではないか。
「モノよりも、眠ることのない都市の安心のほうに価値を見いだす。部屋は狭くても都心で暮らすことが、その人の人生観そのものなんです」(黒崎さん)
専有面積30~50平方メートル台のコンパクトマンションが大都市の「駅近」で増えている。
分譲マンション事業のコンサルティングを手掛けるトータルブレイン(東京)の久光龍彦社長によると、
「首都圏で新築マンションが年間8万戸超供給されていた10年前、コンパクトマンションのシェアは1割程度が相場でした。しかし今は、総供給数が4万戸台に減る中で、そのシェアは15%と増えています」
かつては、シングルやDINKS、子どもが巣立ったシニア層といった、2人以内のニーズに応えるのがコンパクトマンションだったが、最近は、狭くても、子どもを持とうと考える若い家族が住めるモデルがトレンドに加わりつつあることが背景にある。
●23区全体に広がる立地
狭ければ、若い夫婦にも買える程度の値段になるだろう、と想像するのは自然だが、最近はそうとも言い切れない。