Dシリーズ開催の前年、富士宮市観光課(当時は福祉総合相談課に所属)の稲垣康次さん(48)は、富士宮市の認知症当事者とともに奈良市を訪ね、現地の当事者と交流した。

 認知症になると、本人は引きこもりがちになり、家族はけがやトラブルを恐れてスポーツや旅行をためらうケースが多い。そんな課題を話し合ううち、稲垣さんがぽろっと、「富士宮の当事者が、中学時代にソフトボール部でキャプテンだった」「富士宮には有名なスタジアムがある」と話した。すると、奈良の当事者が、「ソフトボール、いいね!」「認知症になっても、子どもの頃みたいに、熱くなれる活動をしたい」。こんな会話がきっかけで、話が進んだ。

 大会当日、会場のテーブルには、富士宮市の「おかみさんの会」の女性たちが、おにぎりや富士宮やきそばを準備した。地域の食堂の人たちも、名物の「ヨーグル豚トン
」の焼き肉を振る舞って、全国からの参加者をもてなした。

 選手は40代から70代まで幅広い。昨年は当事者、家族、サポーターら60人、今年は150人が参加した。富士山がドカーンとそびえる最高の景色のもと、選手のボルテージも上がる。全力疾走から滑り込む、熱いプレーも展開された。

AERA  2015年11月2日号より抜粋