右肩上がりが望めない時代に、夫が“下山”を始めたら……。下山夫に翻弄される女性を取材した。
スマホにまた矢印が立った。夫がGPSで私の居場所を探しているのだ――。都内でSEとして働く女性(47)は、そんな夫の行動に息苦しさを感じている。
「週末に娘と買い物に出かけていると、『(2人が)今ここにいると思って』と突然夫が目の前に現れた時には、さすがに背筋が寒くなりました……」
夫(53)とは社内結婚で、今も同じ会社で働いている。夫は現場仕事が好きで、管理職になる気がない。このため給与は頭打ちなうえ、40代後半に入ってからは、30代が中心となる現場のなかで扱いづらさもあるのか、仕事が減った。それにつれ、亭主関白で家のことは何もしなかった夫が、“自分の居場所”を家庭に大きく依存するようになってきた。
子どもたちが乳幼児のころは子育てに一切関わらなかった夫は、いきなりイクメンに。子どもが熱を出せば会社を休んで病院に連れていき、息子が小学生になるとサッカースクールの送迎も定時退社し週3回欠かさずこなした。
「でも似非(えせ)イクメンなんです。家からサッカー場まで10分の距離ですし、高学年になると友だち同士で帰る子も多かった。夫は必ずしも必要ではなく、子育てを体のいい言い訳に、仕事から逃避しているように私には見えました」
会社の給与は基本給を低く抑え、残業代の割合が大きいので、定時退社する夫の年収はガタガタと落ちてきた。子どもたちの教育費のピークを前に、女性は大きくため息をつく。
「イクメンになるより、仕事をしてほしい……」
職場のメンタルヘルスを多く扱う、東京メンタルヘルスの所長・武藤清栄さんは男性の意識変化を次のように語る。
「右肩上がりの時代と違い、今は働く男性の多くが仕事の意味ややりがいに疑問を感じ、心に揺らぎを抱えている。下山しながら生きがいを見つけようとしていることをわかってほしい」
夫婦で大事なことは、気持ちを伝え合うことだという。
「夫にしても、誰にも言えない気持ちを話すことで心が浄化され、それが次に向かうエネルギーにつながります」(武藤さん)
※AERA 2015年10月26日号より抜粋