必要なモノを最小限に絞り込んだ生活様式を採る人たち、「ミニマリスト」がブームになっている。だが、実際にそれを実践するには難しい点もある。特に考えなければならないのは、洋服についてだ。
いかにミニマリストとはいえ、仕事着を全部捨てることはできないだろう。洋服はたくさん持ちたくないが、少ない手札で最大限の効果を発揮するにはどうしたらいいのか。よく言われるのは、「費用対効果なら、黒のスーツがいい」との説だ。
不動産大手で働くIさん(38)もミニマリストの一人。モノはなるべく持たず、趣味の海外旅行にお金をかけてきた。ヨーロッパ旅行にだって、よく行く。スーツは黒を着回してきた。
「ファッションに興味はないし、コーディネートを考える時間がもったいないから」
これに対し、メンズファッションスタイリストの齊藤知宏さんは訴える。
「黒のスーツはやめるべきだ」
その理由はこうだ。
「欧米の一般常識として、黒のスーツはお葬式のときにだけ着るものなんです」
黒は結婚式などの祝い事も兼ねられるから便利、と言われてきたのは事実だが、その説も実は怪しい。
まず、結婚式で黒を着るのはシニア世代だけだ。お葬式だって年に3回も行けばかなり多い方だろう。一方、日本人の年間勤務日数は平均250日程度。だとするなら、仕事をしている時間の99%を費やす服で冠婚葬祭を視野に入れるのは、非合理的なムダ遣いなのだ。