4月26日、東京都渋谷区長選で「大番狂わせ」が起きたことは記憶に新しい。政党からの支援を受けない「完全無所属」で立候補した新顔の元区議・長谷部健さん(43)が、大政党の支持を受けた元都議らを抑えて初当選したのだ。
劇的勝利を支えたものがなんだったかを知るには、10年余り前にさかのぼる必要がある。
渋谷区生まれ渋谷区育ちの長谷部さんは博報堂で働いていたころ、小学校時代からの幼なじみ、松本ルキさん(43)とその父親(故人)に持ちかけられた。
「区議として、街のプロデュースをやってもらえないか」
松本さんの父は、アパレルブランド「メンズバツ」の創業者。松本さんは2代目。ファッションとアート関連の事業を手がけるかたわら、商店街振興組合「原宿表参道欅会」での活動を始めていた。コミュニティーをつくり、ブランド価値を高めていきたい。区政を担う人の中に、志を共有する仲間がいたら──。3年にわたる説得を受け、長谷部さんは2003年に区議選への立候補を決めた。
区議選は、独自の戦法で戦った。長谷部さんも、区議時代から参謀役を務めた松本さんも、選挙経験ゼロのド素人。「区民に迷惑だと思われたくない」と、マイクは使わずに地声で語りかけ、電話もかけなかった。これが支持を集めて、最初の選挙でトップ当選。その後もこのやり方を変えることなく、むしろ定着させてきた感さえある。