区議を3期12年務めた昨年末、「やりきった。潮時かな」と思い始めたが、今年1月、当時の渋谷区長、桑原敏武さんが退任表明し、仲間に背中を押された。

「次は長谷部さんが(渋谷区長選に)出るんでしょ?」

 06年、自らが主導した「シブヤ大学」(NPO法人)がスタート。市民大学ブームに火をつけ、仲間はさらに増えた。区議として発案した「LGBTパートナーシップ条例」や、ナイキ社との「宮下公園リニューアル」などの仕事も評価され、桑原さんから後継指名まで受ける。

 区長選は、区議選と違って2~3人では回せない。だから所帯は大きくした。これまで以上にすべての層へのアピールが必要だから、つながりのあるPR会社の経営者にも加わってもらった。この経営者がネット選挙に強い人物として連れてきたのが、加生健太朗さん(34)。偶然にも、過去にある講座で一緒になったことがあり、知らない仲ではなかった。結局、長谷部さんは事務局長とネット選挙広報を加生さんに託した。

 松本さんの経営するカフェで働いていた元料理人や、シブヤ大学のつながりから手を挙げてくれた人もいて、区長選を戦う「チーム長谷部」が生まれる。中心メンバーは、20代後半から50代。共通の政党や業界団体でつながったわけではないから、バックボーンはばらばら。加生さんは、興奮冷めやらない表情でこう話した。

「投開票の日、選挙事務所は満員。知らない人がたくさんいた。その知らない人が、自分ごとのように長谷部の当選を喜んだんです」

AERA 2015年6月1日号より抜粋