中田芙紗さん(撮影/前田博史)
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中田芙紗さん(撮影/前田博史)
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墨を付けたタンポと呼ばれる道具でリズミカルにたたく(撮影/前田博史)
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墨を付けたタンポと呼ばれる道具でリズミカルにたたく(撮影/前田博史)

 地下と地上を結ぶマンホール。その蓋のデザイン性、奥深さにハマる女性が増えている。土地の記憶に出合う扉としての深読みも楽しい。

 おもむろに路上へ座り込んだのは、拓本家の中田芙紗(ふさ)さん(79)。彼女の視線の先にあるのは美しいデザインの「マンホールの蓋(ふた)」だ。まずは汚れをきれいに拭き取り、和紙を置いて水で湿らせる。模様が浮き出るように押し付けながら、墨を付けたタンポと呼ばれる道具でリズミカルにたたいていく。ぽんぽん、ぽんぽん。集中すること約30分。あっという間に独特の味を持つ「マンホール拓本」のできあがりだ。

 中田さんはもともと歴史的な碑などを拓本の題材としていたが、15年ほど前にマンホールと出合い、今では「生きがい」に。全国を訪ね歩いて150以上の拓本を採集している。

「蓋のデザインは、伝統芸能から生物、またロケットやロボットまで多種多様。そのどれもに“日本”が描かれているんです。こんなに多様なデザインがあるのはこの国だけ。マンホール拓本を通じて日本文化を海外にも伝えていきたい」(中田さん)

 地図製作会社に勤める山市香世さん(33)は、マンホール愛好家歴約5年。仕事でマンホールについて調査したことから「目覚めた」。旅行先では、その地域のマンホールの蓋を写真に収めて収集するのが喜びなのだという。

「マンホールは、その土地の記憶に出合う“トビラ”のようなもの。蓋ひとつから読み取れる情報は無限です」

 愛好家歴半年の小金井美和子さん(37)も、「蓋から出されたクイズを解いて楽しんでいる」と話す。

 愛好家たちは、都内にある古い蓋の位置をだいたい把握しているそうで、近くで工事があると新しいものに取り換えられていないか心配になり「生存確認」に向かうこともあるらしい。

AERA 2015年5月4-11日合併号より抜粋