今、都内の大学に「散歩サークル」なるものが増えているらしい。その活動内容とは。
「じゃあ、出発しまーす」
昨年11月中旬の日曜日、午前10時半。東京・市谷にある法政大学から、集まった6人の学生が挨拶もそこそこに、2列になって歩きだした。目指すは、「とりあえず北西の方角」。細い木の枝を地面に立て、倒れた北西に向かう。
「いつもは事前に目的地を決めるのですが、新たな試みとして枝に委ねることにしました」 と、先頭を歩く法政大学散歩サークル「散歩のド素人」の代表で創設者、文学部2年の栗原望さん。風ならぬ、枝まかせ。十字路に来るたびに枝を倒し、倒れた方角を目指す。
タッタッタッ……。学生たちの足取りは軽い。JR飯田橋駅前を通り神楽坂を抜け、住宅街をひたすら歩く。「散歩」というより「競歩」に近い。
「ルンルン歩くと思っていたのですが、結構ガチです」と、昨年5月末にサークルに入った法学部1年の原万依子(まいこ)さんは笑う。香川県出身。入学すると面白そうなサークルだと思い、入るとハマった。
赤信号で止まるたび、先頭の栗原さんを除く5人の並びを入れ替えるので、新たに隣同士になったメンバーとの会話も楽しい。授業のこと、バイトのこと、趣味のこと……。一見、非効率で無駄なようにみえる散歩だが、学ぶことも多い。自宅でゲームをするのが趣味だという文学部2年の竹内茉莉奈(まりな)さんも散歩にハマった一人。
「話題を絶やさないようにするためコミュニケーション能力が上がる。歩き切った達成感もあります」
13時に池袋のサンシャイン60(豊島区)に着くと、「一本締め」でお開きになった。法政だけではない。今、首都圏の大学で「散歩サークル」が次々と誕生しているのだ。早稲田、慶應、明治、東洋、東大、首都大学東京など、私立国公立と広がっている。
栗原さんは大学に入学するとフットサルのサークルに入った。だが、スケジュールが合わず1年でやめた。何かサークルをやりたいと思いインターネットで検索していると、他大学に散歩サークルがあることを知った。楽だし、コミュニケーションも取れるし、お金もかからない──。早速、ブログを立ち上げ、キャンパス内にポスターも貼ってメンバーを募集した。
こうして、昨年4月に6人からスタート。メンバーは口コミなどで徐々に増え、今では24人。東京の築地や新宿、高尾山への紅葉狩り。東京スカイツリーの夜景も見にいったという。
※AERA 2014年3月10日号より抜粋