ストーカーによるつきまといや待ち伏せ、度重なる電話など、様々な行為によって苦しめられる深刻な状況は、殺傷事件を含む報道などで広く知られるようになった。中には自分は被害者なのに、加害者の機嫌を取らなくてはならず、苦しさが倍加する。そんな場合もある。

「その服めちゃくちゃ可愛いね」
「今日のブーツすごく似合ってるね」

 首都圏の20代の会社員、美香さんは2年前、勤務先の上司から毎日のようにそんな言葉をかけられた。上司は40代で妻子もいるが、単身赴任中だった。社内では寡黙で通っているだけに、

「アイシャドーを変えたね」と言われたときにはゾッとした。

 食事に何度も誘われるので、同期を交えて応じた。社内の飲み会で彼を誘わないと、「どうして僕を誘ってくれなかったの」などと粘着質なメールが来た。美香さんが週末に遠出をすると知ると、「今度は休みの日に遠くで会おう」と言われた。

 ある朝出社すると、美香さんの机に封筒に入れたロッカーの鍵が置かれ、上司からメールが届いていた。

「君のために買った。駅前のロッカーです」

 恐る恐る見に行くと、カゴに入った綺麗なピンクのフラワーアレンジメントだった。

 これらすべてが気持ち悪かったが、プライドの高い上司なので拒絶したり冷淡に流したりできず、ストレスがたまった。こっそり彼の上司に報告すると、彼を左遷してもいいと言われたが、結局処分は望まなかった。あと数カ月で彼は異動になるとわかっていたこともあるが、

「同じ会社の人なので今後会わないとも限らず、恨まれるのが怖かったんです」(文中名前のみは仮名)

AERA 2012年10月29日号