その一方で、子どもたちに口頭で伝えることもある。
「墓の希望など、私は常に子どもたちに言葉で伝えています。気持ちは変わりますから。今は、実家近くのお寺の中の樹木葬(墓石ではなく、木や花などを目印とした墓)を希望しています。情報が増えれば、選択基準も変わります。常に柔軟でいたいので、気持ちが変わったときに子どもたちに口頭で伝えるようにしています。70歳を過ぎたぐらいからノートに書くかもしれませんが」
携帯電話のパスワードなど他人に知られてはいけないデジタル情報も、メモに残すのではなく、子どもたちに口頭で伝えている。
あえてエンディングノートは記していない。ノートに関しては、書き方に注意が必要だと考えている。
「大事な情報を全部1冊にまとめて盗難時に大丈夫なのかしら、とは思います。逆に、漠然とした情報を書いても役立ちません。例えば、介護状態になったとき、『家でみてほしい』と書く。これは何の情報でもプランでもありません。乱暴すぎます」
どう最期を迎えるか、親と子は丁寧にコミュニケーションを取ることが必要だ。畠中さんによると、「子どもに迷惑をかけたくない。お金をかけられないから」という理由で施設に入ることを避け、在宅を希望する人が多い。だが、在宅介護でも施設でも迷惑がかかるときはかかるし、コストもどちらがかかるかはわからない。
「どちらが安いかは亡くなって初めてわかることです。結果論。施設をきちんと調べたり、見学したりして、両方をてんびんにかけて選んでほしい。その努力をせずに、ただ『子どもには迷惑をかけたくない』と考える。これは矛盾しているんです」
もしも、親が「施設はハードルが高い」と考えているようなら、週末に外食に誘ってついのすみかの希望を聞くのもいいだろう。そのついでに施設を見てもいい。「お父さん(お母さん)とは同じ施設には入りたくない」という本音が出るかもしれない。
終活を一緒に始めることが、悔いのない別れにつながる。(本誌・大崎百紀)
※週刊朝日 2020年3月6日号