落合恵子さん (c)朝日新聞社
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 親子の別れは必ずやってくる。その日のために子どもは何ができるのか。作家の落合恵子さんが、認知症だった母との別れを振り返る。

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「つきあってくれて、ありがとう」

 落合恵子さん(75)は、2000年から7年間にわたる在宅介護の末、認知症の母を看取(みと)った。こう振り返る。

「1週間でいいから、(ここに)帰っておいで、と思うときがあります。母も私も、介護については初心者でした。つらかったのは他でもない母自身だったと思いますが、私も母の変化についていくのに大変で精いっぱいの日々でした。もし、今母が帰ってきたら、あのときよりきっと、もう少しゆったりとした介護ができるかもしれない。1週間でも1カ月でも、1年でもいいから、もう一度やらせてもらえる?と言いたい気持ちがあります」

 亡くなって12年経った今でも、あの病院で良かったのか、胃ろうは正しかったのか、と考える。

 母親と病院近くのバリアフリーの住まいに移ったときのことも、いまだに頭から離れない。当時ひとりで懸命に頭を悩ませ、結論を出した。

「あのとき、母自身はどうだったのかしら、と。30年以上暮らした家を去るとき、なんだか少し悲しそうでしたから。あまり自己主張をするタイプの人ではなかったので、それが今でも気になります」

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