オリンピックイヤーの今年、私たちの暮らしに関わるルールが変わる。大改正された民法が4月から順次施行され、相続や契約などの仕組みが一新するのだ。7月からは法務局が遺言書を預かる新制度も始まる。変更・注意点を徹底ガイドしよう。
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まずは、誰もがいつかは経験する相続について。新しいルールは2019年から施行されてきており、今年中に完了する。
今年4月からは、今回のルール変更で目玉とされる「配偶者居住権」の制度がスタートする。住宅の権利を「所有権」と「居住権」に分け、それぞれ相続できるようにするものだ。夫が亡くなった後に、残された妻が自宅に住み続けやすくなる。
高齢化によって、残された配偶者はかつてより長く老後を過ごすようになっていた。従来のルールでは妻が自宅を相続すると、他の相続人にお金を支払うために自宅を売らざるを得ないケースがあった。
配偶者居住権をうまく使えば、自宅に住み続けながら一定の現金も確保しやすくなる。例えば、預貯金2千万円と資産価値2千万円の自宅を、妻と子ども2人の計3人が相続するケースで考えてみよう。
法定相続分どおりに分ける場合、今までは妻が自宅を相続すると、預貯金2千万円は子ども2人が1千万円ずつ分けることになり、妻はお金を手にできない。
新制度では妻が居住権だけを相続することが可能だ。居住権の評価額は妻の年齢などをもとに計算されるが、所有権より低めになることが多い。仮に1千万円とすれば、妻は預貯金の半分1千万円を手にできる。
相続に詳しい弁護士の吉田修平さんはこう指摘する。
「遺産に占める不動産の割合が大きいケースでは、配偶者居住権を使うことで老後の資金を確保しやすくなります。実務的な部分はこれから決まってくることも多いので、どのように運用されるのか注目しています」
相続コーディネーターで相続支援会社「夢相続」の曽根恵子代表は、配偶者居住権を利用すべきかどうかはケース・バイ・ケースだと言う。
「いずれ自宅を処分して引っ越そうと考えている場合などは、選ばないほうがよいでしょう。高齢者向けの施設に移る選択肢もあるのです。迷ったら専門家に相談しましょう」