別の友人・ミサさんは満員電車の中で、大きなスーツケースを前に置いて座席にすわっている男性に「スーツケースが邪魔です。抱えるとかしていただけませんか? こちらの体がつぶれます」と言いだす始末。幸い男性が黙ってスーツケースを自分に寄せてくれたからよかったものの、これにはサキコさんも脱力。しかしミサさんは意に介さない。電車を降りるなり「こんな混む時間帯に皆の迷惑よ。今日は“日本のマナー”について書くわ」と息巻く。決して押しの強い性格ではなかった2人の共通点は、これまたSNSのヘビーユーザーだということだ。

 いまの世の中、シニアでもブログ、ツイッター、フェイスブック、インスタグラムといったSNSを利用している人は多い。そしてどんな人でも自分の意見を発信することができる。その環境への“慣れ”が、実生活にもジワジワと表れてきているのだろうか。

「それは否めないでしょうね。ネットの世界では誰もが自分の思ったことを一方的に発信することができます。その文化に慣れていくと自己中心的な視点に凝り固まって、相手の視点に立って想像力を働かせることができにくくなります」

 と言うのは、心理学者の榎本博明さんだ。

「対面で相手とコミュニケーションをとるしかなかった時代は、相手が目の前で傷ついたり悲しんだりするのもわかるから、あまり一方的なことも言いづらいといった感覚を、多くの人が持っていたと思います」

 しかしネットというのは、そういった配慮がいらない世界。

「その世界に心のモードが慣れてしまうと、実生活でも自分の視点だけで他人を糾弾したり、クレームをつけたりしてしまいがちです。ネット文化の広がりによって、いまやどこでも『思ったことを言えばいい』といった空気感が、世代に関係なく広がっているのかもしれません」

 また正論振りかざしの裏側には「フラストレーション」もある、と指摘するのは臨床心理士で明星大学准教授の藤井靖さんだ。

「本人も気付いていない部分があると思うのですが、日々の暮らしの中で何かしら欲求不満や不全感があると、そういうところに出てきてしまうのです。忙しすぎたり、厳しい職場であったり、家族に否定されていたり……といった環境に置かれていると、心の余裕がなくなり、自分の振る舞いを考えるゆとりもなくなってしまいます。そんな中で何かしら刺激が加われば、導火線は短いですからね」

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